第16回日本アレルギー学会春季臨床大会(会長=中澤次夫・群馬大学医学部教授)が2004年5月12日〜14日の3日間、群馬県民会館など3会場で開催された。 今回の基本テーマは「アレルギー疾患の臨床的特性の把握と予防・治療」で、難治性喘息、アトピー性皮膚炎の発症機構、アレルギー性鼻炎と喘息に関するone airway one diseaseなど日常臨床に直結するプログラムが多く組まれた。また、最近問題になっている「環境とアレルギー」も主要テーマとして盛り込まれ、活発な討議が行われた。
わが国の喘息死は減少する一方で高齢化している
群馬大学保健学科教授 中澤次夫氏
喘息死の減少は世界的な傾向だが、群馬大学保健学科教授の中澤次夫氏は会長講演「我が国の喘息死の動向」の中で、日本でも2000年以後、喘息による死亡者数は著明に減っていると報告した。それによると、成人喘息死亡だけに限っても、80年代の死亡者実数は年間6,000人台だったものが、96年以降5,000人台となり、2,000年以後は3,000人台へと減少している。ただ、全体が減っている中で、80代、90代の死亡者は増加しており「喘息死の高齢化現象」が浮き彫りになった。一方、治療との関係では吸入ステロイドの普及、β2刺激薬の使用低下が喘息死の減少と密接に相関していた。また、ロイコトリエン拮抗薬の登場も寄与しているという報告もある。中澤氏はこうした喘息死の著明な減少を「治療や予防対策の成果」としながらも、現実にはまだ年間3,000人以上が死亡していることから「ガイドラインに基づいた患者・家族へのさらなる啓蒙、教育が必要」と強調した。
化学物質過敏症はアレルギー疾患患者に起こりやすい
独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床環境医学センター 長谷川眞紀氏
化学物質過敏症の発症メカニズムは不明だが、独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床環境医学センターの長谷川眞紀氏は、同症50例の検討からアレルギー疾患を持つ患者に起こりやすいことを突き止め、報告した。対象は、2002年4月〜2004年3月までに同センターを受診した130例で、うち116例をデータベース化した。化学物質過敏症の診断は、(1)化学物質暴露の既往がある、(2)多臓器の症状がある、(3)症状を説明する他の疾患を除外できる、(4)慢性の症状である、の4条件を満たすものとした。その結果、116例中50例が化学過敏症と診断され、うち42例(84%)はアレルギー疾患の合併か既往があった。とりわけ多かったのがアレルギー性鼻炎で32例にのぼった。化学物質過敏症がアレルギー反応によって惹起されるとは考えにくいが、長谷川氏はこの成績から「同症がアレルギーを持つ患者に起こりやすい、あるいはアレルギー疾患を悪化させる可能性がある」と述べた。
小児喘息の有症率は20年で2倍に
独立行政法人国立病院機構福岡病院診療部 小田嶋博氏
小児喘息の増加が指摘されているが、独立行政法人国立病院機構福岡病院診療部の小田嶋博氏は、西日本地域での経年調査から、ここ20年で有症率が2倍に増加していることを明らかにした。同グループでは、福岡市で長年にわたって疫学調査を続けているが、それによると1980年には3%台だった小児喘息の有症率が2001年には6%台へと約2倍に上昇していた。発症年齢も以前に比べると低下し、3歳児でも増加が認められた。ただ、都市と郡部における有症率の差は減少し、全国を県別に分けて比較しても地域差は少なくなっていた。一方、小児喘息の増加要因としては出生前と出生後のファクターがあり、前者では喘息の家族歴、妊娠中の母親のアトピー性皮膚炎への罹患、後者では、0歳児での母親の喫煙、早期の感染などが考えられた。しかし、これらの要因と喘息の発症の因果関係は明確ではなく、「保育環境と有症率についてはさらに検討の余地がある」と小田嶋氏は述べた。
咳喘息とアトピー咳嗽の違いを明確に
金沢大学大学院細胞移植学・呼吸器内科 藤村政樹氏
慢性咳嗽をきたす疾患は多いが、わが国では咳喘息とアトピー咳嗽が2大原因疾患である。金沢大学大学院細胞移植学・呼吸器内科の藤村政樹氏は、その臨床像の違いを明確にするとともに、具体的な治療の進め方を示した。それによると、咳喘息は慢性乾性咳嗽が唯一の症状で、β2刺激薬などの気管支拡張薬が奏功する病態を指す。β2刺激薬には鎮咳作用はないため一般的な咳嗽には効かない。つまり、β2刺激薬が有効な咳嗽は咳喘息のみで、同氏は「これがそのまま咳喘息の定義になる」と指摘した。一方、アトピー咳嗽も症状は咳喘息と全く同じだが、異なるのは気管支拡張薬が無効で、ヒスタミンH1拮抗薬が60%の患者に有効な点だ。治療に際してはこの点を踏まえ、まず気管支拡張薬を投与してどちらの疾患かを見極める。そして咳喘息なら気管支拡張薬の継続、さらに吸入ステロイドの上乗せ、アトピー咳嗽ならヒスタミンH1拮抗薬への切り替えが基本になる、と述べた。
アレルギー性結膜炎の特徴を明らかに
山口大学分子感知医科学講座 熊谷直樹氏
アレルギー性結膜炎はI型アレルギー反応によって生じる角結膜の炎症疾患で、アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性角結膜炎、コンタクトレンズなど異物が誘因となる巨大乳頭性結膜炎の4つに分類される。山口大学分子感知医科学講座の熊谷直樹氏は、これら4疾患の臨床像の特徴を明らかにするとともに、診療上の問題点を指摘した。同氏はまず、上記4疾患に共通の症状として「掻痒感」を挙げた上で、アレルギー性結膜炎では眼脂、結膜充血、流涙などをきたすが視力障害は起こらない。これに対して増殖性変化を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎では、激しい掻痒感や眼脂に加え、角膜上皮障害のため視力低下や眼痛をきたすことがあるとした。そして、こうした重症型の角膜病変や上眼瞼結膜の増殖性変化の成因について「まだ不明な点が多い」としたうえで、「目はアレルギー反応が起こりやすい結膜と起こりにくい角膜が隣り合うという特異的な構造をしている。この構造自体が病態の形成に関わっている可能性がある」と分析した。
気道リモデリングにケモカインが関与
昭和大学第一内科 松倉聡氏
気道リモデリングは喘息の重症化、難治化の要因として注目されている。このリモデリングにおける構造変化の1つが平滑筋細胞の肥大だが、昭和大学第一内科の松倉聡氏らはその進展にケモカインが密接に関与していることをin vitroの実験から示した。ケモカインは白血球走化作用を持つサイトカインで、すでに40種あまりが同定されている。同グループでは、培養した平滑筋細胞をサイトカインで刺激し、これらケモカインの発現やメカニズムを探った。その結果、Th2サイトカインであるIL-4やIL-13は好酸球や肥満細胞を遊走させるeotaxin、eotaxin-3,MCP-4などの発現を増強した。また、その発現には転写因子であるSTAT6が重要な役割を演じていた。一方、これらケモカインの発現はステロイドで抑制された。このことから松倉氏は「ケモカインの発現は吸入ステロイドなどである程度抑制できる」としながらも、「リモデリングが進み難治化したケースでは対応が難しく、転写因子STAT6などを標的にした治療法の開発が課題」と述べた。 |