第17回日本アレルギー学会春季臨床大会(会長:独立行政法人国立病院機構 南岡山医療センター院長 高橋 清)が6月2日〜4日の3日間、ホテルグランヴィアなど2つの会場で開催された。本会では「アレルギー疾患の発症と重症化を防ぐ」をテーマにアレルギー科診療のあり方について討議された。最終日にはアレルギーの最新情報を非会員とも共有すべく、教育講演、公開シンポジウム、公開アレルギー講座および市民公開講座も企画され、約3,600名の参加者が活発な意見を交わした。 花粉症に合併する慢性咳嗽の現状神戸大学大学院耳鼻咽喉・頭頸部外科 石田春彦氏神戸大学大学院耳鼻咽喉・頭頸部外科の石田春彦氏はシンポジウム「慢性の咳嗽」において、全国10施設で実施した花粉症に伴う慢性咳嗽の実態調査結果を紹介した。2003〜2005年の花粉症患者259名(スギ246名,シラカンバ13名)の解析から、1)咽頭アレルギーと考えられる患者は約45%を占める、2)咳嗽は約64%で認められ、うち75%は乾性である、3)花粉飛散数の多い年は咳嗽を訴える患者が多い、4)咳嗽発作は比較的軽度の患者が多い、5)咳嗽の有無や乾性・湿性に性差はみられない、6)咳嗽と咽喉頭異常感の両者を訴える患者は約60%を占める、7)花粉飛散期において咳嗽発作と鼻閉は同様に推移する、8)花粉飛散の多い時期には咽頭アレルギー患者で咽頭披裂部の変化がやや強い傾向にある、9)咳嗽や咽喉頭異常感に対して抗ヒスタミン剤が有効、などの点が明らかになった。今回の調査から、花粉症患者の咳嗽は後鼻漏によるものではないと考えられた。 新しいタイプの食物アレルギー横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学 猪又直子氏横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学の猪又直子氏は、シンポジウム「食物アレルギーの現状と対策」において、感作抗原と異なる抗原により生じる新しいタイプの食物アレルギーが増加していることを報告した。このタイプの食物アレルギーは口腔アレルギー症候群(OAS)と呼ばれる。OASとは新鮮な果物などを摂取した後に主としてかゆみや腫れなどの口腔咽頭の粘膜症状を呈するIgE介在型アレルギー疾患である。感作抗原は花粉やラテックスなどで、花粉感作に対してはりんご、柿、桃など、ラテックス感作では栗、バナナ、アボガドなどが交差反応性を示す。その理由は、抗原認識部位の高い相同性が挙げられる。また、猪又氏は、従来の食物アレルギーは摂取後数分〜2時間に発症する即時型アレルギーであるが、遅れて起こる食物アレルギーも存在することを指摘した。その例として、摂取後8〜12時間に蕁麻疹などの症状を発現する納豆アレルギーの存在を明らかにした。納豆アレルギーで症状発現が遅れる理由について、同氏は「納豆の粘調物質である生体ポリマーが納豆アレルゲンの腸管放出を遅らせている可能性がある」と述べた。 シックハウス症候群はアレルギー性鼻炎の患者に多い国立病院機構相模原病院 長谷川眞紀氏国立病院機構相模原病院の長谷川眞紀氏はシンポジウム「シックハウス症候群の現状と展望」において、同症候群を“室内の空気質(indoor air quality)による健康被害”と定義し、アレルギー疾患の合併頻度を報告した。当院受診患者のうち119名がシックハウス症候群と診断され、そのうち71%(84名)は女性で、最も多い年齢層は40歳代だった。アレルギー疾患の合併あるいは既往は、81.5%(97名)に認められ、なかでもアレルギー性鼻炎の合併頻度が最も多く59.7%を占めた。合併するアレルギー性鼻炎のアレルゲンは、スギ(77%)とハウスダスト(44%)が多かった。同氏は「単にシックハウス症候群がアレルギー性疾患をもつ患者に発症しやすいだけでなく、室内気汚染がアレルギー疾患を増悪・惹起させる可能性がある。実際、アレルギー性疾患に対する治療によりシックハウス症候群の症状も軽快することが多い」と述べた。 生物学的製剤に求められる課題東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター 鎌谷直之氏東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターの鎌谷直之氏は招待講演「リウマチ性疾患とサイトカイン療法」において、日本では統計疫学研究の基盤が弱く、オーダーメイド医療の基礎となるべき統計疫学データが不足していると指摘した。近年、関節リウマチの薬物治療のターゲットは、症状(痛み)から分子(サイトカイン)に移行し、最近では骨破壊を抑制する生物学的製剤として抗TNF製剤が導入され、優れた成績を収めている。しかし一方で、高価であることや薬効に個人間の差が大きいという問題、感染症の増悪リスクも指摘される。したがって、個々の患者ごとに副作用と効果を予測して治療するオーダーメイド医療に期待が高まっている。こうしたニーズに応えるためには、その基礎となるデータ収集が不可欠で、同氏はその取り組みとして「当センターの山中寿氏が中心となって関節リウマチ患者4,500人以上を対象にコホート研究、J-ARAMIS注)を進めている」と紹介した。 注)J-ARAMISについては、ホームページ(http://homepage3.nifty.com/ior/jaramis/news-top.htm)に詳しい。 感染、アレルギー、ゲノム異常の重なりが拡大岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学 森島恒雄氏岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学の森島恒雄氏は、教育講演「ウイルス感染とアレルギー発症」において両者の接点について話した。マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析によると、インフルエンザ感染の急性期には免疫反応に関係した遺伝子の発現亢進(IL-6mRNA,IL-10mRNA発現の上昇やNF-kBの活性化)が認められる。森島氏によれば、このようなインフルエンザ感染時に見られる免疫異常とサイトカイン産生という現象は、アレルギーの局所で起こっている反応と同様であり、ある種の素因(先天的な免疫異常)が熱性痙攣やインフルエンザ脳症を引き起こす。また、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV;chronic active EBV infection syndrome)では蚊アレルギーを高頻度に認め、EBウイルスがT細胞に感染した時に予後が悪く、IgE抗体価が高い時に生存者が多い。同氏は「EBウイルスとIL-10に87%の相同性があることやウイルスがT細胞にも感染することは、アレルギーを連想させる」と述べた。最後に「ゲノム解析やプロテオ−ム解析注)が進むにつれ、感染、アレルギー、およびゲノム異常の重なりが拡大しつつある」とまとめた。 注)ヒトが持つ蛋白質の量的、質的な変化を網羅的に解析することで、疾病の診断に応用可能である。 |
||||