第32回日本集中治療医学会学術集会(会長:東京医科大学麻酔科学教室主任教授 一色淳)が、2005年2月24日〜26日の3日間、東京の京王プラザホテルで開催された。医療の高度化・先端化が急ピッチで進むなかで集中治療医学に求められ、また果たすべき役割はますます大きくなっている。今学会のメインテーマは「集中治療における先進医療と安全性を求めて」で、多数の医師、看護師、臨床工学技師が参加した。中核をなす医師部門では、教育講演やシンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどを通じ、「いかにして患者さんを助けるか」をめぐって活発な議論が展開された。
高頻度振動換気法は成人ARDSに対しても肺保護戦略となりうる
福島県立医科大学麻酔科学 中根正樹氏
新生児領域で普及している高頻度振動換気法(HFOV)は、1回換気量を低く抑えて高頻度に換気を行う方法で肺の圧力損傷を最小限にできる。福島県立医科大学麻酔科学の中根正樹氏は、シンポジウム「ARDSに対する最新のStrategy」で、HFOVが成人の急性呼吸促迫症候群(ARDS)に対しても有用な肺保護戦略となりうるとして成人ARDSを対象に北米で行われたMOAT studyの成績(AM J Respir Crit Care Med 166:801-8, 2002)を紹介した。既報によると、HOVFは通常の人工呼吸法に比べ肺の酸素化に優れ、有意差はなかったものの30日後の死亡率を低下させた。さらに、HOVFの安全性も示された。中根氏は、HOVFの設定や鎮静・筋弛緩、患者監視モニタの実際を述べ、「今後、成人ARDSに対してHFOVが普及するには死亡率をエンドポイントとした無作為化比較試験を行う必要があり、HFOVを施行できる集中治療医の育成が欠かせない」と指摘した。
転写因子NF-κBの迅速測定法の開発
─表面プラズモン共鳴法─
富山医科薬科大学医学部臨床検査医学 北島勲氏
全身性炎症反応症候群(SIRS)は遷延重症化すると救命困難な場合が多く、その病態を迅速かつ的確に捉える必要がある。富山医科薬科大学医学部臨床検査医学の北島勲氏は、シンポジウム「集中治療における重症感染症:新しいマーカーの意義と治療への応用」で、炎症性サイトカイン発現の中心的役割を担う転写因子NF-κBの迅速測定法を開発したことを明らかにした。従来、NF-κBの測定にはラジオアイソトープを利用したゲルシフトアッセイが用いられてきたが、結果が出るまでに12〜20時間を要していた。北島氏が開発した測定法は表面プラズモン共鳴法注)を応用したもので、ごく微量な分子を測定できる。測定時間は15分以内と迅速性に優れ、検出感度も非常に高い。北島氏は「現在、持ち運び可能な測定機器の開発に向け、さらに検討を進めている」と語った。
(注)生体高分子が金属表面に吸着しやすい性質を利用した方法で、金属薄膜に光を入射させたとき、金属表面に吸着した抗体複合体によって反射光強度が減少することを測定原理としている。
脳浮腫の発生、促進、治癒過程の鍵を握るたんぱく質 ─アクアポリン─
名古屋市立大学大学院医学研究科危機管理医学 祖父江和哉氏
名古屋市立大学大学院医学研究科危機管理医学の祖父江和哉氏は、パネルディスカッション「救急医療における集中治療:最近のトピックス」で、脳浮腫の病態にアクアポリン(AQP)が関与している可能性を示した。AQPは水を特異的に通過させるチャネルで13種類あり、脳では星状細胞に発現するAQP4の役割が注目されている。報告によると、ラット脳損傷モデルで損傷直後の超急性期にAQP4の発現は低下し、その後、AQP4の発現が上昇して浮腫形成の発端になると考えられた。AQP4の機能は、急性期に水の流入によって浮腫を促進する一方、治癒期には水の排出によって浮腫を改善するという二面性をもつことが示唆された。また、IL-1βが急性期のAQP4発現を増強することも確認された。祖父江氏は「今後の研究の進展により、AQPをターゲットとした新しい脳浮腫治療薬の開発につながる」と期待を述べた。
経食道エコーは肺疾患にも重要な情報をもたらす
弘前大学医学部附属病院集中治療部 坪敏仁氏
経食道エコー(TEE)は心疾患の観察に用いられることが多いが、弘前大学医学部附属病院集中治療部の坪敏仁氏は、ワークショップ「集中治療における経食道エコー」で、TEEは肺疾患の観察にも有用で、なかでも急性呼吸促迫症候群(ARDS)のよい適応だと報告した。ARDS患者では、TEEで観察した下側肺障害部位面積がCTで観察した同部位の面積や肺の酸素化能と高い相関を示すことが確認できた。またTEEは、経胸壁エコー(TTE)と比較しても障害部位中心部の解像度や血流観察に優れるという利点があり、胸水量の推定や呼気終末陽圧(PEEP)時の障害面積評価などにも応用できることから、坪氏は「TEEは心疾患だけでなく肺疾患にも重要な情報をもたらす」と話した。
進歩続く日和見型深在性真菌症の遺伝子診断
帝京大学医真菌研究センター/ゲノム解析リサーチ・センター 槇村浩一氏
医療の高度化・複雑化に伴って、免疫機能が低下した患者に生じる日和見感染症としての深在性真菌症が増加している。帝京大学医真菌研究センター/ゲノム解析リサーチ・センターの槇村浩一氏は、教育講演「真菌による健康障害とその管理のための分子生物学的アプローチ」で、深在性真菌症の遺伝子診断を中心に概説した。
深在性真菌症の診断には菌培養による起因菌の同定が必須であったが、PCR法による病原真菌の遺伝子診断の登場によって、菌の同定率が向上した。しかし、PCR法による診断法は外部の検査機関に委託する必要があり、迅速性に難点があった。こうしたなかで最近、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法と呼ばれる新しいDNA増幅システムがわが国で開発された。一定温度でDNAの増幅が可能なためサーマルサイクラーは不要で、増幅に要する時間はPCR法の90〜180分に対し20〜60分と短い。感度、特異度とも極めて高く、阻害物質の影響も少ない。槇村氏は「LAMP法に現在開発中のDNAチップを組み合わせることで、病原真菌の遺伝子診断がベッドサイドで自動化できるかもしれない」と将来展望を語った。
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