第35回日本動脈硬化学会総会(会長=北徹・京都大学大学院医学研究科循環器内科学教授)が,2003年9月27日と28日の両日,国立京都国際会館で開催された。さらなる増加が予想される動脈硬化性疾患の克服に向け,「血管前駆細胞はどのように動脈硬化に関わるか」など10のシンポジウムを含むプログラムが組まれ,基礎から臨床まで最新の知見が発表された。第20回大島賞は動脈硬化の発生病理研究により宮崎医科大学副学長の住吉昭信氏が,第4回日本動脈硬化学会賞は遺伝性脂質代謝異常症の研究により金沢大学大学院医学系研究科血管分子遺伝学(内科)教授の馬渕宏氏がそれぞれ受賞した。 動脈硬化の予防には「一無二少三多」の生活習慣が有効東京慈恵会医科大学健康科学センター 和田高士氏動脈硬化は,脳卒中や心筋梗塞などの生活習慣病の基盤となる。東京慈恵会医科大学健康科学センターの和田高士氏は,動脈硬化を予防する健康習慣の標語として「一無二少三多」を提唱している。「一無二少三多」とは,無煙(喫煙本数ゼロ),少食,少酒(1日2合未満),多動(週1回以上の運動),多休(1か月に6日以上の休日),多接(多くの物や人に接する)の6つを指す。和田氏らはこれらの習慣を実行することが動脈硬化の危険因子にどう影響するかを,人間ドックを受診し治療を受けていない6,975例(平均46.8歳)について検討した。その結果,健康習慣の実行数が多いほど血圧,中性脂肪,血糖の有意な低下,HDL-Cの有意な上昇など危険因子の減少が認められた。 コレステロールエステル転送蛋白(CETP)の低下は動脈硬化抑制に作用金沢大学大学院医学系研究科血管分子遺伝学 高田睦子氏CETPは,HDL-CとVLDLのトリグリセライド(TG)を交換する血清蛋白で,HDLに存在する。金沢大学大学院医学系研究科血管分子遺伝学の高田睦子氏は,高知県N地区の一般住民を対象に,血清HDL-C,CETP遺伝子変異および虚血性心疾患に関する横断調査を行ってきた。その結果によると,TaqIB2多型はCETP低値と関連しており,プロモーター上流の多型と連鎖不均衡にある。さらに,TaqIB2は動脈硬化の抑制に関連していることが判明したという。また脂肪食の負荷試験で,CETP遺伝的欠損ホモおよびヘテロ群ではTG増加が低下していた。以上の成績から高田氏は「CETP低下は高HDL,低LDL状態,さらに食後TG増加の抑制状態を示し,動脈硬化に対して抑制的に働く」と述べた。 頸動脈エコーを用いた「函館動脈硬化研究(HASCLE STUDY)」の中間報告函館赤十字病院循環器科・中島内科循環器科 中島滋夫氏頸動脈の肥厚度(IMT)は動脈硬化の優れた指標となる。函館赤十字病院循環器科・中島内科循環器科の中島滋夫氏は,このIMTを用いて進行中の多施設オープン試験「函館動脈硬化研究(HASCLE STUDY)」の成果を報告した。同試験は2000年11月にスタートしたもので,頸動脈エコーの所見と脳心血管イベントとの関係を3〜7年にわたり追跡する。今回はその途中経過として2003年8月までの1,447例の分析をまとめた。方法は,頸動脈左右計8か所のIMTの平均値(M)と血管壁面の不整度(IR)を測定し,その組み合わせから「Normal」(MとIRがともに中央値より小さい),「Plaque」(Mのみ大きい),「Irregular」(2つがともに大きい),「Diffuse」(Mが大きくIRが小さい)の4タイプに分類し,イベントとの関係を調べた。その結果,脳梗塞の発症率は,4つのタイプの中で「Diffuse」が最も高かった。中島氏は「IMTに血管壁の不整指標を加味することで,脳梗塞の鋭敏な予知因子になりうる可能性がある」と指摘した。 糖尿病に伴う血管障害の機構をめぐり新たな知見東京大学医学部糖尿病代謝内科 大須賀淳一氏最終糖化産物(AGE)は糖尿病に伴う血管障害に悪影響を及ぼすと考えられている。東京大学医学部糖尿病代謝内科の大須賀淳一氏は,シンポジウム「血管障害因子としての糖尿病と耐糖能障害」で,AGEの処理機構について検討した成績を紹介した。近年,スカベンジャー受容体が,変性LDLの処理だけでなく,感染防御,AGEの処理,アポトーシス細胞の処理,細胞接着など多様な機能をもつことを示唆する報告がなされている。同氏らは,血管内皮細胞からクローニングされたスカベンジャー受容体であるFEEL-1/2やSREC-1の機能を解析し,FEEL-1/2が親和性の高いAGE受容体であるのに対し,SREC-1はAGE受容体としてほとんど寄与しないことを明らかにした。FEEL-1が血管内皮細胞に多く分布することも認めた。今後の課題は,「各組織でのAGE受容体としての寄与の程度や,AGE受容体の臓器保護作用の有無を明らかにすること」であるという。 生活習慣病患者のマネジメントは動脈硬化の予防を視野に入れて医療法人中尾医院 中尾正俊氏動脈硬化を予防するには高脂血症,高血圧,糖尿病,喫煙など危険因子の管理が欠かせない。医療法人中尾医院の中尾正俊氏は,生活習慣病対策フォーラム「職域における動脈硬化予防とRisk Factorの管理」で,心血管系からみた生活習慣病の危険因子の管理について講演した。同氏は,Population対策として,個々の危険因子は軽くともそれらが集積したマルチプルリスクファクター症候群を積極的に管理指導することを挙げ,High Risk対策としては,冠動脈疾患の有無や危険因子の数に基づいてリスクを分類し,それぞれの管理目標値を設定することを挙げた。その上で「生活習慣病の患者では,脈波伝播速度(PWV)や内膜中膜厚(IMT)を計測して,早期に動脈硬化の重症度を評価し,危険因子をきめ細かく管理すべき」と述べ,動脈硬化の予防を視野に入れたマネジメントの重要性を強調した。 |
||||