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我が国の肺癌による死亡数は過去40年間で12倍増え、死亡率は男性で第1位、女性でも胃癌に次ぎ第2位となった。肺癌診療のさらなる進歩に大きな期待が寄せられるなか、11月6日、7日の両日、東京・京王プラザホテルで、第44回日本肺癌学会総会(会長=加藤治文・東京医科大学第一外科教授)が「肺癌診療の標準化と個別化-プロテオーム新時代」をテーマとして開催された。厚生労働省研究事業による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究の最終報告を皮切りに、プロテオーム解析をテーマとしたシンポジウム、ゲノム情報に関するEducational Sessionなどで最先端の興味深い研究成果が報告された。

肺癌診療ガイドライン「グレードC」の扱いなどに注意を

東北厚生年金病院 藤村重文

厚生労働省医療技術評価総合研究事業「Evidence-based Medicine(EBM)の手法による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究」の最終報告が、主任研究者である東北厚生年金病院の藤村重文氏により行われた。この中で藤村氏は、肺癌診療ガイドラインを使用する際には、1)すべての患者に適用するのではなく、患者の状況や要求、医療環境などを総合的に判断して適用すべきこと、2)各診療法の推奨(勧告)グレードが4段階で表されているが、3番目の「グレードC:行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」とされる診療の中には、有望だが新しい治療法であるために十分なエビデンスがないもの、経験的に有効であっても報告がない治療なども含まれること、3)2003年の国内外の報告は今後の改訂版に盛り込まれることなどの点に注意してほしいと訴えた。

肺癌患者の肺局所細胞性免疫―高度喫煙により減弱

千葉県がんセンター呼吸器科 木村秀樹

高度の喫煙は肺局所の細胞性免疫を減弱させる可能性のあることが、千葉県がんセンター呼吸器科の木村秀樹氏らによって報告された。木村氏らは、肺癌患者82例の切除標本より肺胞洗浄液とリンパ節を採取し、それぞれの細胞浮遊液中の各種細胞表面マーカーを測定した。その結果、T細胞系マーカーであるCD3陽性細胞、ヘルパーT細胞マーカーであるCD4陽性細胞、T細胞活性化の補助刺激因子であるCD28陽性細胞のリンパ節中における比率は、いずれも高度喫煙群で有意に低く、逆にサプレッサーT細胞、キラーT細胞のマーカーであるCD8陽性細胞の肺胞洗浄液中における比率は高度喫煙群で有意に高いことがわかった。高度喫煙は、外来刺激に対する第一の関門である肺の免疫能を低下させ、それが発癌の一因になっている可能性も考えられるという。

血清DNAメチル化―早期肺癌でも高率に検出

岡山大学第2内科 藤原慶一

血清DNAのメチル化検出が肺癌の早期診断に有用と考えられる成績が、岡山大学第2内科の藤原慶一氏らにより報告された。腫瘍発生の過程で重要な癌抑制遺伝子不活化のメカニズムの1つとされる遺伝子プロモーター領域のメチル化は、発癌の比較的早期の段階でも認められることが示されている。藤原氏らは、検診などで胸部異常陰影を指摘され、気管支鏡検査が行われた患者の血清を採取し、DNAにおいて5種類の癌抑制遺伝子のメチル化検出を試みた。各遺伝子のメチル化は、肺癌群(91例)が非悪性呼吸器疾患群(100例)に比べて高率で、肺癌診断におけるメチル化のsensitivityは50%、specificityは85%。肺癌オッズ比はメチル化遺伝子1個で5.08、2個以上で7.39。メチル化はI期肺癌でも51%に認められ、腫瘍マーカー陽性の11%に比べて明らかに高率だった。

肺癌の分子標的療法 ―研究の最前線を報告―

岡山大学医学部附属病院遺伝子・細胞治療センター 藤原俊義

岡山大学医学部附属病院遺伝子・細胞治療センターの藤原俊義氏は、Educational Session「肺癌治療に有用な分子標的とその臨床応用の可能性」で、p53遺伝子発現アデノウイルスベクター(Ad5CMV-p53)の感染により、p53遺伝子のN末端ドメインに存在するSer46のリン酸化が認められた肺癌細胞ではアポトーシスが誘導されること、樹状細胞にAd5CMV-p53を感染させることにより、変異型p53過剰発現癌細胞に対する細胞障害性Tリンパ球(CTL)の誘導が可能であったことを報告した。さらに、テロメラーゼの構成成分であるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーターの制御下に、アデノウイルスの増殖に必要なE1遺伝子を発現させることにより、癌細胞特異的に増殖して細胞融解をもたらす新しい制限増殖型アデノウイルス(TRAD)を開発したことを明らかにした。

血清腫瘍マーカーProGRP―肺癌診断の陽性尤度比9倍

広島大学大学院分子内科学 河野修興

広島大学大学院分子内科学の河野修興氏は、Expert Opinion「肺癌の新しい血清腫瘍マーカーについて」で各マーカーの最近の評価を報告した。それによると、ProGRPは小細胞肺癌(SCLC)への特異性が高く、病変の進展度、PS(performance status)と並び、SCLCの独立した予後因子になる。ProGRP陽性時に肺癌である確率(陽性尤度比)は約9倍高くなると予想される。CYFRA 21-1は非小細胞肺癌(NSCLC)における陽性率が高く、臨床病期や年齢と同様、NSCLCの独立した予後因子になること、陽性値が病期の進展に伴って上昇することなどが明らかにされている。CEAはNSCLC症例において、特に縦隔リンパ節転移を反映すること、最大径2cm以下の非小細胞肺癌の独立した予後因子になること、術後病期(手術後に病理診断判明した病期) Ia〜IIbの症例で術前CEA値が10ng/ml以上だと67%が再発、10ng/ml未満では80%が再発しないなどのデータが報告されている。

有望な臨床データが集積されつつある抗VEGF抗体、免疫療法

九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学 中西洋一

九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学の中西洋一氏は、Educational Session「血管療法と免疫療法」で、肺癌に対する両治療法の研究の進展状況を紹介した。それによると、血管新生を抑制する抗VEGF抗体は臨床試験で良好な成績が得られており、肺癌治療の新たなツールとなる可能性が出てきた。ヒト化抗VEGFモノクローナル抗体のbevacizumabでも腫瘍縮小効果が認められているが、副作用の喀血が課題である。一方、免疫療法でも臨床的有用性を示唆する研究成果が得られてきた。腫瘍特異抗原を標的としたワクチン療法では、日本人に高頻度のHLAより提示される腫瘍特異抗原が明らかにされた。また、樹状細胞療法、あるいは樹状細胞を腫瘍特異抗原でパルスする樹状細胞ワクチン療法も臨床応用に向け、有望なデータが集積されつつある。