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第44回日本呼吸器学会学術講演会

第44回日本呼吸器学会学術講演会(会長=堀江孝至・日本大学医学部内科学講座内科一教授)が,2004年3月31日〜4月2日の3日間,東京国際フォーラムで開催された。

メインテーマの「基礎と臨床の融合」を基本に主要プログラムが組まれ,9題のシンポジウムのうち7題は「各種呼吸器疾患の発症メカニズムから治療への展開」というタイトルで気管支喘息,COPD,肺癌などの7疾患が取り上げられた。また,看護師や理学・呼吸療法士などに学習,研修の場を提供する目的で,初めての「呼吸ケアカンファレンス」が行われたことも今学会の特徴であったといえる。

かぜ症候群における抗菌薬適正使用の啓蒙などが今後の検討点

倉敷中央病院呼吸器内科 石田直

日本呼吸器学会(JRS)は昨年6月、市中肺炎、院内肺炎に続く呼吸器感染症ガイドラインとして「成人気道感染症診療の基本的考え方」を作成した。倉敷中央病院呼吸器内科の石田直氏は、ワークショップ「気道感染症ガイドライン」で、JRSの気道感染症ガイドラインの特徴と今後の検討点などを示した。JRSのガイドラインは上気道から下気道感染症を網羅しており、この点が海外のガイドラインとは異なる。急性上気道感染症(かぜ症候群)では、抗菌薬の使用制限を行っていることも特徴である。慢性下気道感染症では、起炎菌が同定されるまで経験的に使用するエンピリックな経口薬としてレスピラトリーキノロンが推奨されていることと、マクロライド少量長期療法を取り上げている点が特徴となっている。今後の検討点としては、かぜ症候群における抗菌薬適正使用の啓蒙、レスピラトリーキノロンの耐性化防止などが挙げられた。

HMGB-1蛋白はARDS/ALIで肺内および血中ともに上昇している

京都府立医科大学集中治療部 橋本悟

近年、核蛋白の1つであるhigh mobility group box-1 (HMGB-1)は敗血症の新しいmediatorとして注目されている。京都府立医科大学集中治療部の橋本悟氏は、シンポジウム「各種呼吸器疾患の発症メカニズムから治療への展開―ARDS/ALI」で、HMGB-1と急性肺損傷について報告した。HMGB-1は正常なヒトおよびマウスの気道内に高濃度に存在するが、血中には認められなかった。一方、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と急性肺障害(ALI)症例、およびエンドトキシン(LPS)気管内投与マウスでは、肺内と血中の両方にHMGB-1が認められた。また、マウスに高濃度のHMGB-1を気管内投与すると、LPS投与マウスと同様、強い肺傷害をきたした。このことから、HMGB-1は急性肺損傷の発症と密接に関係することが分かった。橋本氏は「急性肺損傷のメカニズムは複雑でさらに検討が必要である」と述べた。

慢性期の脳血管障害は高齢者の嚥下性肺炎を引き起こす

筑波大学臨床医学系呼吸器内科 関澤清久

肺炎はわが国の死因の第4位を占める疾患で、死亡する人の94%までが高齢者である。筑波大学臨床医学系呼吸器内科の関澤清久氏は、教育講演「嚥下性肺疾患の診断と治療」で、高齢者の肺炎の多くは嚥下性肺炎であり、その背景として脳血管障害による嚥下機能障害が存在することを指摘した。545名の高齢者における2年間の肺炎発症率は、脳梗塞のない群の13%に対し、一側基底核脳梗塞群では27%、両側基底核脳梗塞群では47%に達した。無症候性も含め脳梗塞患者では、肺を守る気道防御反射の低下により、就寝中に不顕性誤嚥を繰り返し、細菌が肺内に吸引されると考えられる。高齢者では発熱や咳など肺炎の典型的症状を示さないことがあるため、注意を要する。予防には口腔ケアなどが有効だとした上で、関澤氏は「根本的対策は脳血管障害の予防であり、高血圧など生活習慣病の管理が重要である」と述べた。

気管支喘息の診断に呼気中の一酸化窒素(NO)測定が有用

国立相模原病院臨床研究センター 秋山一男

気道過敏性テストは気管支喘息の診断に有用だが、患者にとって負担の大きい検査法である。国立相模原病院臨床研究センターの秋山一男氏は、シンポジウム「各種呼吸器疾患の発症メカニズムから治療への展開―気管支喘息」で、患者への侵襲の少ない診断法として呼気中の一酸化窒素(NO)測定の有用性を指摘した。秋山氏らの検討では、気管支喘息の前段階と考えられている咳喘息患者(アトピー性、非アトピー性)と健常者では呼気NO濃度に有意差があり、喘息患者でも治療により症状が安定している群と不安定群および未治療群との間に有意差が認められた。また最近、喘息診断において呼気NOは感度、特異度とも高く、喀痰中好酸球と合わせることでより精度が向上すると報告された(Smith A.D.: Am J Respir Crit Care Med 169: 473, 2004)。呼気NO測定はこれまで測定器につながったオンライン法で行われていたが、オフライン法による測定が可能になったことから、普及が期待されるという。

COPDには形態的に4タイプあり臨床的特徴が異なる

信州大学内科学第一 藤本圭作

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態は多様である。信州大学内科学第一の藤本圭作氏は、シンポジウム「各種呼吸器疾患の発症メカニズムから治療への展開―COPD」で、高分解能CT(HRCT)によるCOPDの形態的分類と臨床的特徴を明らかにした。対象は厚労省難治性疾患研究事業・呼吸不全に関する調査研究班の症例のうち、HRCT画像のある170例とした。視覚的評価により肺気腫優位型76例、気道病変優位型41例、両者の混合型46例、気腫病変に線維化を伴う線維症合併型7例の4タイプに分類できた。気道病変優位型の特徴は、喫煙歴のない例が多く、1秒率と肺拡散能が比較的保たれており、気管支拡張薬への反応性が良好であった。混合型では喀痰を訴える例や重症例が多かった。この2タイプには喘息症状合併例が多いことと、喀痰中の好酸球が多く、ステロイドへの反応性が良好な例が多いという共通点があった。線維症合併型は全例男性で、気腫病変は重度であった。

分子標的治療薬を組み合わせることは生存期間延長につながる可能性もある

島根大学呼吸器内科 礒部威

癌の分子標的治療への関心が高まっている。島根大学呼吸器内科の礒部威氏は、シンポジウム「各種呼吸器疾患の発症メカニズムから治療への展開―肺癌」で、分子標的治療の現状と将来展望について述べた。分子標的治療薬の1つに世界に先駆けわが国で非小細胞肺癌の治療に承認されたゲフィチニブがある。この薬剤は上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする。欧米で行われた第III相試験ではプラチナ製剤とタキサン系あるいはゲムシタビンとの併用が行われたが、生存延長にプラスの効果は認められず、1つの分子のみを標的とすることの限界も示唆された。ほかに注目されている分子標的薬として血管内皮増殖因子(VEGF)の中和抗体があり、米国での第II相試験でプラチナ製剤とタキサン系との併用で生存期間の延長が認められた。さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害薬などの臨床試験の進展が期待されている。分子標的治療薬には毒性が少ない利点がある。将来展望として、礒部氏は「複数の分子標的治療薬を組み合わせることで、患者の病状コントロールとQOL向上、生存期間延長につなげられる可能性がある」と述べた。