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第47回日本糖尿病学会年次学術集会

2002年に厚生労働省が実施した糖尿病実態調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」が約740万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」が約880万人と、1997年の前回調査に比べてそれぞれ50万人、200万人増えた。糖尿病研究のさらなる進展が期待されるなか、2004年5月13日〜15日の3日間、東京国際フォーラムで第47回日本糖尿病学会年次学術集会(会長=岩本安彦・東京女子医科大学糖尿病センター所長)が開催された。メインテーマ「糖尿病根治の時代への扉を開く」のもと、特別講演、シンポジウム、ワークショップなど多彩なプログラムが組まれ、一般演題も口演、ポスターを合わせて約1,400題が報告された。

糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDCS)

筑波大学大学院人間総合科学研究科内分泌代謝内科 山田 信博氏

Japan Diabetes Complications Study(JDCS)は,日本人2型糖尿病患者の特徴や合併症の発症・進展因子,ライフスタイルへの介入の意義などを明らかにする目的で1996年から開始された.山田氏は,シンポジウム「大規模臨床試験とその後の展開」でJDCSの7年次中間解析結果を報告した.

JDCSには,全国59の糖尿病専門施設に外来通院中の2型糖尿病患者2,205名が登録された.登録時の平均年齢は59歳,平均罹病期間は11年.患者は,従来どおりの外来治療を継続する非介入群と,血糖や脂質,血圧などに治療目標を設定してライフスタイル改善の指導を強化する介入群の2群に割り付けられた.

JDCSのこれまでの解析から,日本人2型糖尿病患者の平均BMIは23.1と肥満度は高くないこと,食事療法に運動による身体活動を併用すると,血糖コントロール改善に有効であることなどが明らかにされている.

7年次中間解析における単純網膜症の新規発症率は40.6人/1,000人・年,網膜症の増悪率は16.0人/1,000人・年であった.この値は従来の報告と大きな違いはなく,さらに強力な介入が必要であることを示している.網膜症の新規発症には糖尿病罹病期間,HbA1c,空腹時血糖のほか,収縮期血圧(SBP)が140mmHg以上であることも有意な危険因子となっていた.

腎症発症の有意な危険因子はSBP,トリグリセリド(TG),BMI,HbA1cであり,血糖だけでなく血圧,脂質,肥満管理の重要性が示された.SBP 130mmHg以上の群では,それ未満の群に比べ腎症発症リスクは2倍以上であった.

従来,日本人2型糖尿病患者の大血管合併症として,虚血性心疾患より脳血管障害の方が多かったが,今回の解析ではそれぞれの発症率は8.0人/1,000人・年,7.4人/1,000人・年と逆転していた.虚血性心疾患では男性,TG,LDL-Cが,脳血管障害ではSBP,HbA1c,LP(a)が有意な危険因子であった.また,虚血性心疾患(男性)の発症率は,糖尿病にTG>150mg/dLあるいはLDL-C>120mg/dLが重積すると2倍となったが,さらに高血圧や肥満が加わってもリスクの上昇は認められなかった.

介入の効果は脳血管障害で認められ,7年次における発症率は非介入群の9.92人/1,000人・年に対し介入群では4.98人/1,000人・年と,発症リスクは50%有意に低下した.

山田氏は最後にJDCSの今後の展望に触れ,「2型糖尿病の合併症の進展を効率よく抑制する対策につなげていければと思う」と述べた.

心血管病リスクとしてのメタボリックシンドローム

山梨大学大学院医学工学総合研究部内科学第2 久木山清貴氏

●高RLP血症は高TG血症やインスリン抵抗性よりも強力な心血管危険因子

メタボリックシンドロームが呈する多彩な病態のなかでも,心血管疾患(CVD)との関連が特に密接な因子として,カイロミクロンや超低密度リポ蛋白(VLDL)に由来する高レムナントリポ蛋白(RLP)値の上昇が注目を集めている.

久木山氏らは,虚血性心疾患(IHD)患者の約7割に高RLP血症がみられ,高RLP血症患者がIHD を発症する相対リスクは肥満,TG高値,HDL-C低値,高血圧,インスリン抵抗性といったメタボリックシンドロームの主要な構成要素を保有する患者のリスクに比べて高いことを見出した.RLP高値(>5.1mg/L)の患者の3年間の心血管イベント発症率は,RLP低値(<3.3mg/L)の患者の約6倍も高率であったという(p=0.003).

RLPはTGの代謝産物であるが,TGは食事等の影響を受けやすいためか,TG高値の患者とTG低値の患者のイベント発症率には有意な差は認められない(p=0.78).よって,RLPはTGよりも強力な危険因子であり,優れたイベント予測因子であると同氏は述べた.

●高RLP血症による心血管イベント誘発機序には酸化ストレスが関与

IHDの発症には,動脈硬化の進展や血栓形成にかかわる“atherothrombotic factors”の関与が推測される.そこで久木山氏らは,培養内皮細胞にRLPを添加し,接着分子ICAM-1とVCAM-1,ならびに組織因子の発現に及ぼす影響を検討.これらの発現はRLPによって著明に増強され,その増強はN-アセチルシステイン(抗酸化剤)によって抑制されることを見出した.RLPはまた,転写因子AP-1/NF-κBのDNAへの結合も増強し,その増強はビタミンEにより阻害される.すなわち,RLPは酸化ストレスの増強を介して“atherothrombotic factors”の転写を活性化し,IHDの基盤たる動脈硬化を進展させることが推測された.

このように,高RLP血症がIHD発症を促進することに疑いを挟む余地はないが,RLPの低下が心血管イベントの抑制につながることを証明した大規模臨床試験はまだない.また,治療薬にはTG低下作用に優れたフィブラートがよいのか,それとも近年の強力なスタチンを用いるべきかも明らかではない.そこで現在,山梨大学をはじめとする全国65施設では,高RLP血症に伴うIHDに対する脂質低下薬の効果を検討する初めての前向き比較試験「DISCOVER」を進行中であるという.その結果が待たれるところである.

脳血管リスクとしてのメタボリックシンドローム

広島大学大学院病態探究医科学脳神経内科 松本 昌泰氏

●虚血性脳血管障害には代謝性要因の関与も少なくない

脳血管障害は,日本国民の死因の第3位,入院原因の第2位,そして65歳以上の高齢者の「寝たきり」の原因の第1位を占める.2030年には人口の3人に1人が65歳以上という未曾有の高齢化社会を迎えつつあるわが国にとって,その予防の成否は国の明暗を決するといっても過言ではない.

脳血管障害の最大の危険因子は高血圧であるが,先頃実施された「J-MUSIC研究」によると,心原性脳塞栓症以外の虚血性脳血管障害では,糖尿病や高コレステロール血症など,代謝性の要因の関与も少なくないことが示されている.欧米では,虚血性脳血管障害と冠動脈疾患,末梢動脈障害は,いずれも共通の基盤を有する動脈硬化性病変として捉えるのが一般的だ.

こうした「共通の基盤を有する病変」の徴候は,大動脈では40歳前後から認められるが,冠動脈に徴候が現れるまでには約10年,脳血管に現れるにはさらに10年ほどのタイムラグがある.この事実に着目した松本氏は,早くから頸動脈エコー検査を導入することを推奨する.実際,頸動脈病変の程度を示すプラークスコア(PS)と中内膜肥厚(IMT)は,虚血性脳血管障害および冠動脈疾患の発症と強い相関を示すことが数多く報告されている.この時期に将来のリスクを予見し,代謝性要因等の適切な管理・治療を行えば,かなりの虚血性脳血管障害が回避されることが期待されよう.

●代謝性要因をターゲットとした治療は虚血性脳血管障害を予防しうるか?

しかし,代謝性要因をターゲットとした治療の有用性については,「脳卒中治療ガイドライン2004」に「冠動脈疾患を伴う高脂血症患者における脳梗塞予防にはスタチンの大量投与が有効」との記載があるものの,欧米の臨床試験の結果をそのまま日本人に当てはめてよいかという疑問が残る.さらに,二次予防に関する脂質低下療法の有用性についてはいまだ十分なエビデンスが得られていない状況であるという.

そこで松本氏らは,心原性脳塞栓症以外の虚血性脳卒中既往者に対する脂質低下療法の効果を検討する「J-STARS試験」を企画,3,000例を目標に参加症例の登録を開始したところだ.約110施設が参加した同試験では,頸動脈エコーと高感度C反応性蛋白(CRP)への影響を検討するサブスタディも予定されている.脳血管障害予防に果たすメタボリックシンドローム管理の意義も,この試験が終了する2010年頃には明らかになるだろう.

日本人の2型糖尿病の20〜30%にインスリン抵抗性が関与

京都大学人間・環境学研究科身体機能論講座 津田謹輔氏

メタボリックシンドロームは,インスリン抵抗性と代償性高インスリン血症を共通の基盤とする病態である。京都大学人間・環境学研究科身体機能論講座の津田謹輔氏は,シンポジウム「メタボリックシンドロームをめぐって」で,約700人に施行した経口糖負荷試験(OGTT)の解析結果をもとに日本人の2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の役割について述べた。2型糖尿病には,OGTTで血糖値が上昇するIGTから糖尿病へ移行するタイプと,空腹時血糖値が高いIFGから糖尿病へ移行するタイプがある。検討の結果,前者ではインスリン分泌能の低下が,後者ではインスリン抵抗性と分泌能低下の両方が関与していることが確認された。OGTT受検者のタイプ別人数から推測すると,日本人の場合,インスリン抵抗性の関与により2型糖尿病へ移行する割合は20〜30%と考えられた。また,メタボリックシンドロームのモデル動物であるOLETFラットでは,一定量以上の運動によって加齢に伴う筋線維の組成の変化が抑制され,同時にインスリン抵抗性と耐糖能異常の改善が認められたという。

2型糖尿病患者では運動による酸化ストレスが増加する

大阪市立総合医療センター内科 石井伴房氏

運動はインスリン感受性を高めるが、一方で活性酸素を発生させ組織や細胞を障害する酸化ストレスを増加させる可能性がある。また、高血糖状態は酸化ストレス亢進状態を招くとされる。大阪市立総合医療センター内科の石井伴房氏は、シンポジウム「運動療法の基礎と臨床」で、運動と酸化ストレスについて検討したデータを報告した。この検討では糖尿病の運動療法として至適強度の運動を30分間負荷し、酸化ストレスの指標(尿中8-iso-PGF2αと血中8-OHdG)を測定した。健常者では運動による酸化ストレス増加はみられなかったが、2型糖尿病患者では酸化ストレスが増加し、細小血管症合併例ではより高度であった。運動による酸化ストレス増加はビタミンE投与により抑制された。石井氏は、2型糖尿病患者の運動処方に際しては酸化ストレスの観点からの検討が必要と指摘するとともに、「抗酸化薬の投与でより安全に運動が行えるのではないか」と述べた。

膵β細胞の培養にニコチナマイドとコノフィリンの添加が有望

東京女子医科大学総合研究所細胞再生医療部門 大河原久子氏

糖尿病の根治療法として膵細胞の移植が考えられるが,その実現には膵β細胞の安定した培養が欠かせない。東京女子医科大学総合研究所細胞再生医療部門の大河原久子氏は,シンポジウム「糖尿病における再生医療の基礎と臨床」で,膵β細胞の培養に関する基礎研究の現状を示した。膵β細胞の分化・増殖の検討には生後3日以内の新生児ブタの膵幹細胞・前駆細胞を用いているが,形成された膵島様のクラスター(細胞塊)を培養する培養液をめぐって試行錯誤を重ねてきた。その結果,膵β細胞の分化・増殖を促進する物質であるニコチナマイドに,植物アルカロイドのコノフィリンを加えた培養液が最も有望であることがわかった。この培養液で培養した細胞群では,β細胞の出現とともに膵の発生・分化を調節するPDX-1などの転写因子の出現が確認された。

大規模研究からみた糖尿病の望ましいコントロール基準を示す

広島原爆障害対策協議会・健康管理センター 伊藤千賀子氏

糖尿病合併症を予防するには管理目標値の設定が重要となる。広島原爆障害対策協議会・健康管理センターの伊藤千賀子氏は、ワークショップ「コントロール基準と日本におけるエビデンス」で、同センターの健康診断で糖尿病と診断された9,001例を対象とした大規模研究からみた望ましい糖尿病のコントロール基準を示した。この研究は横断的研究と、そのデータをもとにした縦断的研究から成る。横断的研究では網膜症など合併症発症率を、血糖コントロールの段階別に全例および罹病期間6年以上の患者群で解析した。縦断的研究では、2,642例を対象に網膜症の発症率を比較するとともに、経過中のHbA1c 値が同じ群間で網膜症の累積発症率を比較した。この解析結果から伊藤氏は、横断的解析から罹病期間の長い患者を分析すると、空腹時血糖値は130mg/dL未満が望ましいとした。経口糖負荷試験2時間値は動脈硬化との関連を考えれば200mg/dL未満、HbA1c値は総合的には6.0%未満が最適だが網膜症の累積発症率からは6.5%未満でも十分―という基準を示した。

厳格な血糖管理は2型糖尿病の細小血管症の発症・進展を遅らせる

熊本大学保健管理センター 岸川秀樹氏

熊本スタディでは、2型糖尿病患者を対象に厳格な血糖コントロールによって細小血管合併症の発症・進展を抑制しうるかが検討された。熊本大学保健管理センターの岸川秀樹氏は、シンポジウム「大規模臨床試験とその後の展開」で、同スタディの10年間の経過観察結果を報告した。対象は中間型インスリン1日1〜2回注射で治療されていた2型糖尿病患者110例である。一次予防群(網膜症なし、尿中アルブミン排泄量<30mg/日)、二次介入群(単純網膜症あり、尿中アルブミン排泄量<300mg/日)に分け、さらに従来療法(CIT)群と頻回インスリン注射を行う強化療法(MIT)群に割り付けた。10年間の血糖コントロールはMIT群が有意に良好であった。10年後の網膜症の累積悪化率は、一次予防群ではMIT群23%、CIT群64%、二次介入群ではMIT群27%、CIT群81%と、いずれもMIT群が有意に低値で、腎症においても同様の結果であった。全体では、空腹時血糖値<110mg/dL、食後2時間血糖値<180mg/dL、HbA1c<6.5%の患者に網膜症、腎症の発症・進展は認められなかった。このほか、MIT群ではCIT群に比べ大血管合併症の発症率も低い傾向がみられた。

高齢者糖尿病の動脈硬化早期診断にIMTとABIの両方の測定が有用

順天堂大学高齢者医療センター糖尿病・内分泌内科 小沼富男氏

高齢者糖尿病では虚血性心疾患や脳梗塞の合併率が高い。順天堂大学高齢者医療センター糖尿病・内分泌内科の小沼富男氏は、シンポジウム「加齢と糖尿病」で、高齢者糖尿病の動脈硬化性血管障害を早期かつ侵襲なく診断する方法を報告した。65歳以上の糖尿病患者590例を対象に、非観血的に頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)と足関節上腕係数(ABI)を同時測定し、それらの異常と虚血性心疾患または脳梗塞の既往との関連を検討した。IMTは1.1mm以上、足関節と上腕の血圧の比であるABIは0.9以下が異常値だが、この検討ではABI 1.0以下についても調べた。その結果、冠動脈硬化または脳梗塞合併群は非合併群に比べ、IMT、ABI、およびそれら両方が異常を示す頻度が有意に高かった。多変量解析では冠動脈硬化、脳梗塞それぞれのリスクに対するオッズ比はIMTとABIの両方が異常な場合に最も高値で、IMTとABIの両方を測定することが有用と考えられた。