第48回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:神戸大学大学院医学研究科 糖尿病代謝・消化器・腎臓内科学 教授 春日雅人)が5月12日〜14日の3日間、神戸ポートピアホテルなど4つの会場で開催された。「生命科学が切り拓く糖尿病学の新たなステージ」をテーマに医師や糖尿病療養指導士など8,000人を超える参加者が集まり、活発な討議が行われた。
糖尿病治療を考える新しい視点
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病代謝・消化器・腎臓内科学 春日雅人氏
神戸大学の春日雅人氏は、会長講演「インスリンシグナリングと糖尿病の発症」において、この分野の研究進展を概説した。今まで糖が細胞内に取り込まれる過程において、インスリンはレセプターに結合したのち、PI-3キナーゼへのシグナルを介して糖輸送担体(GLUT4)を含む小胞が、膜へ移行する過程に働くことが知られていた。最近の研究では、この働きはインスリン濃度が低い場合のみであり、高濃度になると小胞と膜が結合し、融合する過程を促進する信号として伝えられることがわかっている。また、PI-3キナーゼの下流にある転写因子PDK-1の発現を抑制するとインスリン依存性の糖輸送は起こらないことも証明された。さらに、最近では肝臓の糖新生抑制に働く転写因子STAT3や膵島における膵臓β細胞の数や大きさの制御に関係するp27Kip1と呼ばれる蛋白注)が注目されている。同氏は「このようなインスリンシグナル伝達の理解が個体や臓器における役割の解明につながる」と述べ、今後の新しい治療薬の開発へ期待を寄せた。
注)春日らの最新の研究結果は、Nature Medicine 2005年2月号に掲載されている。
糖尿病血管合併症の発症・進展の分子機構の解明 ─AGEの役割─
久留米大学医学部第3内科 山岸昌一氏
久留米大学医学部第3内科の山岸昌一氏は、国内でなされた若手研究者(46歳未満)の優秀な業績に対して贈られるリリー賞の受賞講演「糖尿病血管合併症発症、進展の分子機構の解明」において、終末糖化産物(AGE)の過剰生成が糖尿病血管合併症発症、進展にどう関与しているのか報告した。同氏は、AGEは網膜周皮細胞のRAGEで認識された後、細胞内で酸化ストレスを亢進し、アポトーシスや機能異常を引き起こすことを示し、網膜色素上皮細胞より分離されたPigment Epithelium-Derived Factor(PEDF)注)がこれらの反応を抑制することを報告した。また、山岸氏は、「AGEは血管内皮細胞にも作用して血管増殖因子(VEGF)産生を促進し、糖尿病網膜症で見られる病的な血管新生にもつながる」と述べた。
注)PEDFは網膜に隣接する神経の成長や分化に関わる。眼科分野では強力な血管新生抑制作用が注目されている。PEDFに関する山岸らの最新の報告は、Microvasc Res 2005年5月号に掲載されている。
2型糖尿病治療の新たな治療ターゲット ─ JNK経路─
大阪大学病態情報内科糖尿病研究室 金藤秀明氏
大阪大学病態情報内科糖尿病研究室の金藤秀明氏は受賞講演(リリー賞)「酸化ストレス、JNK経路を介した糖尿病発症、進展の分子機構の解明」において、酸化ストレスの亢進やJNK(c-Jun N-terminal kinase)経路の活性化はインスリン遺伝子発現を低下させ、膵β細胞機能障害や肝臓でのインスリン抵抗性を引き起こすと報告した。同氏らの検討によると、細胞内へ移行可能なJNK抑制ペプチド(HIV-TATペプチド)注)をマウス腹腔内に投与した結果、肝臓および末梢組織のインスリン抵抗性が軽減し、耐糖能障害も改善した。また、金藤氏はJNK経路の下流にある転写因子PDX-1の核外移行がインスリン産生細胞の誘導に大きな役割を演じていることも紹介し、「JNK経路は新たな治療ターゲットになりうる」と結んだ。
注)膜透過性をもたなかった阻害剤にHIV由来の細胞膜透過能をもつ10個のアミノ酸を結合させて作成した。この金藤らの研究結果はNature Medicine 2004年10月号に掲載されている。
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