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ランチョンセミナー・レポート
透析患者の足を守る

講演1
看護師が行う足の手入れ
〜透析患者の下肢切断を予防するために〜
講演2
透析患者の足病変
口演/ポスター・レポート
第49回(社)日本透析医学会学術集会・総会

ランチョンセミナー・レポート 透析患者の足を守る

透析患者は高齢化とともに,糖尿病患者の占める比率が著明に増加しています.透析患者の死亡原因は,心不全,脳卒中,心筋梗塞などの心血管合併症,感染症などである.一方,QOLを損ねるという意味から最も問題となる合併症は,糖尿病透析患者における足の壊疽と,それに伴う切断ではないかと考えられます.本日は,どのようにフットケアを行い,下肢切断を予防し,QOLを改善できるかを,看護師の立場から西澤由美子先生,医師の立場から新城孝道先生にご講演いただきます.

座長 大阪府立急性期・総合医療センター腎臓内科 椿原 美治 氏

【講演1】看護師が行う足の手入れ
〜透析患者の下肢切断を予防するために〜

埴生内科 西澤 由美子 氏

透析患者,特に糖尿病を合併している患者さんの足の手入れについて,本年2月まで勤務していた朝日生命糖尿病研究所における「足外来」の経験を中心に述べたい.

●“爪切り”から足病変の予防へ

壊疽は糖尿病患者の全員に起こるわけではないが,に示した危険因子を多く有する患者ほど起こしやすい.糖尿病性腎症による透析患者を対象に,壊疽合併群と非合併群を比較した虎の門病院の原茂子先生らのデータによると,合併群では糖尿病罹病期間が有意に長く,HbA1c値および総コレステロール値も有意に高いことが示されている.

欧米のようにPodiatrist(足療師)のいないわが国では,足のケアを実践する看護師の役割は大きいと考えられる.朝日生命糖尿病研究所に足外来が開設されたのは15年前の1989年.当初の目的は単に患者の爪切りであったが,外来を重ねるうちに足病変の予防になっていることがわかった.高齢あるいは透析にまで至った患者は視力障害を伴うことが多いので,患者自身が爪を切ることは容易ではない.そのうえ糖尿病患者の場合,深爪や小さな傷から足病変が重症化する危険性が高いのである.

開設から10年間の受診者1,242例の受診理由で最も多かったのは白癬(水虫)で,以下,ウオノメ・タコ,爪切りの順であった.

●足外来15年の経験で実感すること

足外来で行っている足の手入れの進め方を図2に示す.このなかで,看護師が処置をしながら日頃の足の手入れ法をアドバイスすると,患者は覚えやすく,効果も大きいように感じている.また,炎症所見がある場合はすぐに医師に報告するということが大切である.

糖尿病教室においても足の手入れについて話をしているが,ここでは足病変は予防できることを特に強調している.炎症を合併する足病変は足趾がほとんどであるので,特に趾間は注意深く観察するとともに,炎症の誘因となる白癬,ウオノメ,タコの手入れや傷の応急処置指導をしている.最後に禁煙の重要性を話し,当日から禁煙することを勧めている.

足外来に携わって15年余り,患者とスタッフとの間に生まれた信頼関係が,糖尿病治療に対する意欲向上につながったことを実感している.足外来は下肢切断を減少させ,患者自身の足への関心を高めたと信じ,今後も地道な努力を続けていきたい.

【講演2】透析患者の足病変

東京女子医科大学糖尿病センター 新城 孝道 氏

透析患者は現在,その半数以上を糖尿病性腎症患者が占めるようになっており,合併症に対する配慮が今後ますます重要なものになると考えられる.特に留意すべき合併症の1つが足病変で,骨・関節病変,皮膚病変,感染症,血管障害,潰瘍・壊疽など,多彩な病変が認められる.

●骨・関節病変−外反母趾部に角質異常

透析患者では,外反母趾の部位に角質異常が認められることがある.角質異常が悪化するとなかなか治癒に至らない.角質異常は歩行時に外反母趾部に体重がかかることが重要な原因となるので,靴の中敷きなどの装具を使用することが望まれる.

●皮膚病変−乾燥や亀裂は軟膏で根気よく治療を

透析患者で最も普遍的な皮膚病変は乾燥,亀裂である.特に踵や足趾の付け根などに起こった場合は治癒しにくいが,軟膏で根気よく治療していく必要がある.足底角質異常として胼胝(タコ)がみられることも多い.胼胝は体重のかかる部位に発生するため,靴の工夫が求められる.また,鶏眼(ウオノメ)を削るなどのいわゆる素人療法で悪化するケースもある.角質異常に感染症を併発した場合には専門医に委ねるべきである.

●感染症−足白癬症が透析患者の7割以上に

最も問題となる感染症は足白癬症であり,透析患者の7割以上に認められる.多発する原因の1つは,患者,医療側とも病気という認識が薄いことであろう.爪のトリミングとともに抗白癬菌薬の塗布を行い,より重症の場合は抗白癬菌薬の内服も併用する.足白癬症があると爪が変形し,傷の原因になる.傷が悪化すると病変が骨まで及ぶこともある.感染症としてはさらに,致死性の溶連菌感染症である壊死性筋膜炎にも注意すべきである.

●血管障害−骨格筋梗塞や急性動脈閉塞症にも注意

透析患者の血管障害としては,慢性動脈閉塞症やそれによる潰瘍,壊疽が最も重要であるが,その他,骨格筋梗塞も特徴的である.骨格筋梗塞は糖尿病性腎症で多く報告されており,突然の下肢の腫脹,疼痛で始まる.手術の必要はなく,予後も良好だが,再発がしばしばみられる.さらに,足のしびれ,疼痛が突然起こったときには急性動脈閉塞症も疑うべきである.本症は急激に進展し,予後不良である.慢性動脈閉塞症などの末梢循環障害に対しては,塩酸サルポグレラートなどの経口抗血小板薬と,LipoPGE1注射剤の併用が最も効果的と考えられる.

以上のような透析患者の足病変のチェックでは,患者の訴えに十分耳を傾けること,看護師や透析技師の役割が重要であることを認識する必要がある.

口演/ポスター・レポート

LipoPGE1とフットケアの併用療法で足趾潰瘍が完治した透析患者の1例

医療法人慈愛会岩男病院 姫野栄一氏

糖尿病の慢性腎不全患者はASOも合併することが多く,足趾潰瘍は難治性である.ここで提示する症例は,糖尿病の慢性腎不全で透析歴6年,2002年2月に転倒し右大腿骨を骨折して寝たきり状態となり,翌年1月にリハビリ目的で当院に転院となった69歳の女性.入院時右第4足趾皮膚に5mm程度の壊死性潰瘍が認められ,ABIが右0.53,左0.41でASOと診断された.治療は,LipoPGE1(10μg,静注)を週3回透析終了時に,約2ヵ月間にわたって計26回投与,フットケアを毎日2回実施した.LipoPGE1投与約2ヵ月後に第4足趾の潰瘍は良好な肉芽が形成され治癒.現在は毎日1回のフットケアのみであるが再発は認めていない.LipoPGE1の血管拡張作用とフットケアによる末梢循環の血流改善が良好な結果をもたらしたと考えられる.

集学的治療が奏効したPADの1例

碧海共立クリニック 朝倉千恵氏

重症虚血肢における下肢切断は,予後が悪く救肢が最も重要な目標となる.ここで提示する症例は,透析導入時よりASOを合併,Fontaine分類でII〜III度であったが足趾からの感染を機に歩行不能となり入院となった84歳の男性.入院時に足趾3本壊疽,第1趾爪周囲膿瘍,右踵部壊疽が認められた.血管エコー検査により多発性の狭窄を認め,膝窩動脈以遠にまで及んでいたため保存的治療を選択.LipoPGE11Aを計21回静注,高気圧酸素療法を計13回,人工炭酸泉治療とリハビリテーションなどを集中的に施行した結果,入院当初歩行不能であったが安定した歩行が可能となり,下肢の疼痛も自制内まで改善し退院となった.1年後に再入院となり,血管造影で狭窄を認めたため,下肢のPTAを施行し,良好な血管拡張が得られた.その後,人工炭酸泉治療,毎日のフットケアに加えて,必要に応じてLipoPGE1を投与し,現在も疼痛なく歩行可能で,潰瘍や壊疽の再発は認められていない.

足趾の血圧測定を用いた透析患者のASOの早期診断

谷口クリニック 沼本幸雄氏

透析患者では高率にASOが合併し,合併患者は予後不良である.現在,ASOの早期発見にABIが有用とされているが,動脈の石灰化が強い場合はABIが正常値を示し,問題となっている.そこで足関節より末梢にある趾の血圧を測定してTBIを求め,その有用性を検討した.透析患者109名を対象にformPWV/ABIを用いてABIを求めた.次に両側の第1趾または第2趾に専用のカフを装着して足趾の血圧を測定し,趾収縮期血圧/上腕収縮期血圧としてTBIを求めた.ABIとTBIは正の相関を示し,ABI単独ではASOの診断は29%であったが,TBIを併用すると52%が異常と診断された.特に糖尿病患者では,単独で43%に対し併用で72%とASO診断率の向上が顕著であった.下肢の動脈石灰化や足関節から末梢の狭窄があるとABIは正常であるが,TBIが異常値を示すことが示唆された.TBIはASO診断率の向上に有用であると考えられる.

ASO患者の透析中のフットケアと効果

岩倉病院(メディカルサテライト岩倉)透析センター 桑原昭子氏

当院では,全患者の28.7%がASOによりPG製剤を使用している.さらにPG製剤などの薬物療法に加え,フットマッサージ実施チームを編成し,フットマッサージや炭酸泉浴を行うだけでなく,足背温度の変化の観察,潰瘍創の感染処置,食事・生活指導を行っている.ここで提示する2症例は,いずれも糖尿病性壊疽を伴うASO患者で,PG製剤とα-グルコシダーゼ阻害薬あるいはインスリンによる治療に加え,フットマッサージ実施チームによるフットケアが実施された.このうち1症例は治療3ヵ月後に潰瘍創が治癒,もう1症例も治療5ヵ月後に潰瘍創の改善が認められた.ASO患者では,自覚症状に注意するとともに足の観察を行い,早期にフットケアを行うことが救肢に有効であると考えられる.

血栓形成に伴った虚血性変化による足趾潰瘍
〜壊疽に対する人工炭酸泉浴の効果が得られた1症例

日本医科大学腎クリニック 鈴木実子氏

ここで提示する症例は,血栓形成による虚血を原因として右第4趾に潰瘍壊死,左第5趾に変色を有し,他院にて足趾切断を勧められていた73歳の男性.PG製剤と硫酸ゲンタマイシン・ブクラデシンナトリウム軟膏塗布による治療に加え,高濃度人工炭酸泉製造装置を用いて33℃の炭酸泉(炭酸ガス濃度1,200ppm)を製造し,週3回透析日に15分間の足浴を実施.非透析日には自宅で朝夕2回抗菌炭酸足温剤による足浴を実施した.開始後約1ヵ月で感覚の改善傾向がみられ,2ヵ月後より出血を伴う肉芽形成,3ヵ月後には潰瘍壊疽の消退を認め,足趾切断を回避できた.人工炭酸泉浴は,血栓形成を伴った虚血性変化による切断適応足趾病変に対しても有用であると考えられる.

糖尿病透析患者のフットケアチェックリストによる観察と「あし体操」を実施して

JA徳島厚生連麻植協同病院腎センター 大西須真子氏

当院では,糖尿病性腎症で透析を受けている患者に対して,チェック表を用いた足の観察を行うとともに,ベッド上で行う下肢筋力運動(あし体操)を考案,指導している.チェック表を用いた足の観察により,(1)各患者の状態に応じた生活指導が行えた,(2)他科受診がスムーズになり早期の的確な処置が可能になった,(3)患者が足を観察する習慣がついた,などの効果が認められた.あし体操は,筋力アップ,循環改善,末梢浮腫の軽減,関節可動域の維持,意欲向上を目的に理学療法士が考案した.脚の上げ下げ,膝,足首,足趾の曲げ伸ばし,両脚の開閉などの簡単な体操で,バイタルサインが安定した頃に約10分間行う.冷感,しびれ,足が重い,脱力感といった症状を訴える患者が減少する傾向がみられ,スタッフとのコミュニケーションも良好になった.

血液透析患者のASOに対する透析中のPGE1の投与の有効性の検討

東急病院内科 林文宏氏

糖尿病性腎症の増加は,ASO合併透析患者増加の大きな要因となっている.今回,透析患者のASOに対するPGE1の有効性と安全性を検討した.対象はASOを合併する糖尿病性腎症による透析患者5例.透析開始から2時間でPGE1製剤(PGE1-CD)60μgを投与し,投与前と投与1ヵ月後にbaPWV,ABI,加速度脈波を測定した.baPWVは2,363.6cm/secから2,178.6cm/secへと改善傾向を示し,ABIは0.810から0.932へと有意に改善した(p<0.05).加速度脈波のパラメータ(b/a,d/a)がともに改善傾向を示したことから,血管年齢にも改善傾向を認めた.PGE1投与が,血管壁の進展性改善と下肢動脈の狭窄病変改善をもたらしたと考えられる.透析中の過度の降圧は認めなかった.透析患者のASOに対し,透析中のPGE1投与の有効性が示唆された.この結果は,長期的投与による有意な改善を推測させるものである.

透析患者全身チェックの経験

医療法人あかね会 中島土谷クリニック 江草千春氏

当クリニックでは,透析患者の足病変を早期発見・治療するため,スタッフが作成した全身チェック表を利用している.本表は,皮膚とその色の異常,足背動脈の触知,冷感,爪・上肢・下肢の変形,白癬,知覚異常,疼痛,潰瘍の8項目について観察,記録するものである.今回,透析患者121名(平均年齢65.8歳,平均透析歴73.7ヵ月)において,本表による観察を月1回,計7回行った結果をまとめた.上記病変の有病率は96%,糖尿病患者(41名)では100%に達した.有病率は観察開始前と6ヵ月後で変化がみられなかったが,足病変予防のためのセルフケアに対する患者の認識は向上した.しかし,スタッフの約60%は,患者の認識度がいまだ不十分とみていた.患者個々の認識度を評価し,患者ごとの適切な指導を検討していく必要があると考えられる.