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第63回日本癌学会学術総会

第63回日本癌学会学術総会(会長=桑野信彦・久留米大学先端癌治療研究センター長)が、2004年9月29日〜10月1日の3日間、福岡国際会議場で開催された。今学会のメインテーマは「がん征圧への新しい幕開け」で、シンポジウムは基礎研究を中心とした重点課題28題と、臨床各専門領域の現状把握と今後を展望する臓器別課題17題の計45題が組まれた。1,600題を超えるポスター発表では討論の時間帯に他のプログラムを設けない工夫がされ、多数の参加者による活発な討論が行われた。

日本人女性でも飲酒が乳癌罹患リスクを高めることを確認

愛知医科大学公衆衛生学 林櫻松氏

欧米の疫学調査で飲酒による乳癌のリスク上昇が示されているが、日本人女性でも飲酒が乳癌の危険因子であることが明らかになった。愛知医科大学公衆衛生学の林櫻松氏らは、文部科学省助成大規模コホート研究(JACC Study)のデータを用い、乳癌の既往歴がなく、飲酒状況について回答のあった女性35,844人(平均年齢58歳)を対象に飲酒と乳癌との関連を検討した。平均7.6年の追跡で、151人の乳癌罹患(非飲酒者103人、禁酒者3人、現在飲酒者45人)が観察された。年齢など交絡因子調整後の乳癌リスクは非飲酒者と比較して、現在の飲酒者は1.27倍増加し、その量が1日15g以上になると2.93倍の有意なリスク上昇が認められた。閉経後の女性に限っても同様の結果であった。林氏は「1日15g以上の飲酒は乳癌罹患リスクを有意に高める」としている。

組織因子は膵癌の浸潤能を規定し、かつ有用な予後予測因子に

慶應義塾大学外科 似鳥修弘氏

組織因子(TF)は凝固反応に関わる膜貫通型糖蛋白で、癌細胞で発現が亢進していると報告されている。慶應義塾大学外科の似鳥修弘氏らは、膵癌におけるTF発現の臨床病理学的意義を検討した。膵管癌手術症例113例を、切除標本の免疫染色性からTF低発現群(最大割面における腫瘍細胞の25%未満、63例)と高発現群(25%以上、50例)に分類した。検討の結果、TF発現量と局所進展度、リンパ節転移、遠隔転移、臨床病期、分化度に正相関があること、高発現群は有意に予後不良であること、TF発現量は独立した予後因子であることが確認された。また、TFを欠損させると、膵癌細胞株の浸潤能は有意に抑制された。以上から似鳥氏は「TFは膵癌の浸潤能を規定し悪性化および進展に働く。また、手術可能膵癌患者では独立した有用な予後予測因子となり得る」とマーカーとしての可能性を述べた。

残存腫瘍径など進行卵巣癌の予後を左右する因子が明らかに

東京慈恵会医科大学産婦人科・臨床腫瘍部 落合和徳氏

わが国で進行卵巣癌に対するシスプラチンの投与量が標準化されたのは1994年以降である。東京慈恵会医科大学産婦人科・臨床腫瘍部の落合和徳氏は、シンポジウム「婦人科癌の発生機構解明と治療戦略の最先端」で、94年以降の進行卵巣癌の治療成績を後ろ向きに調査した日本・多国籍臨床試験機構(JMTO)のoutcome studyの解析結果を報告した。予後因子の解析対象は、1994〜2000年の7年間に26施設で初回手術を施行したIII、IV期963例中の835例である。解析の結果、予後が良好だったのは、若年者、PS良好、FIGO stage IIIa、b、残存腫瘍径が小さい、また二次的腫瘍切除例であった。組織型では明細胞癌と粘液性癌の予後が悪かった。化学療法のレジメン別治療成績に有意差はなかったが、タキサン系抗癌剤を含むレジメンで良好な傾向がみられた。落合氏は「これらの結果を今後の治療計画立案の参考にしたい」とした。

超高齢化社会では「患者にやさしい放射線治療」の役割が大きくなる

久留米大学放射線科 早渕尚文氏

予想されるわが国の人口推移からみて、高齢者の癌患者増加は必至と考えられる。久留米大学放射線科の早渕尚文氏はシンポジウム「放射線治療に期待されるもの」で、超高齢化社会における癌治療への提言を行った。このなかで早渕氏は、(1)高齢者の頭頸部初発非ホジキンリンパ腫では、放射線治療単独と化学療法併用の予後に差がないこと、(2)胃MALTリンパ腫でH.pylori除菌無効例には、胃切除に代わる低線量の放射線治療が年齢に関係なく有効であることを示した。また、高齢者の肺癌では治療群と無治療群で予後に差がないことをいくつかのエビデンスから紹介した。早渕氏は「高齢者では全身状態不良や合併症がある場合が多く、必要最小限の治療を考えるべきである。“患者にやさしい放射線治療”の役割はますます大きくなるであろう」と述べた。

腎癌の発症・予後にビタミンDレセプター遺伝子多型が関連

岩手医科大学泌尿器科 小原航氏

ビタミンDレセプター(VDR)遺伝子多型と癌との関連が注目されている。岩手医科大学泌尿器科の小原航氏らは、VDR遺伝子多型と腎癌の発症・予後に関する検討成績を示した。対象は1991〜95年に根治的腎摘除術を施行した腎癌患者70名で、健常人119名を対照群とした。PCR-RFLP法による解析から、Apa I 多型のAA genotypeが高頻度に患者群で認められた(20.0% vs. 5.9%、p<0.01)。AA genotypeはAa+aa genotypeに比べ腎癌に対するオッズ比が有意に高く(4.00、p=0.0029)、5年生存率は不良であった(vs. Aa、p=0.046、vs. aa、p=0.030)。また、多変量解析により独立した予後因子であることも確認された(vs. Aa+aa:相対リスク5.1、p=0.012)。小原氏は「VDR遺伝子多型のAA genotypeは腎癌発症の危険因子であり、予後予測因子の1つでもある」と示唆した。(投稿中)

リポオキシゲナーゼと大腸癌との関連の有無についてはさらに検討が必要

藤田保健衛生大学衛生学部公衆衛生学 鈴木康司氏

シクロオキシゲナーゼ(COX)は、アラキドン酸代謝経路の律速酵素であり、そのアイソザイムの1つであるCOX-2が大腸癌の増殖や転移に関与しているのではないか考えられている。アラキドン酸代謝経路のもう1つの律速酵素にリポオキシゲナーゼがある。藤田保健衛生大学衛生学部公衆衛生学の鈴木康司氏らは、リポオキシゲナーゼと大腸癌との関連を検討した。リポオキシゲナーゼによりアラキドン酸からアレルギー性炎症を促進するロイコトリエンが生成されるので、この検討では、血清IgEを指標として用いた。文部科学省研究費助成大規模コホート研究(JACC Study)の対象を用い、ベースライン時に採血した約39,000から、大腸癌罹患者と死亡者を選び、性や年齢、地域をマッチングした対照を選出した。血清IgEは大腸癌症例40名、対照64名で測定できた。性、年齢など交絡因子を調整した大腸癌に対する血清IgE値別のオッズ比は、最低値群1.00、中間値群1.63、最高値群1.43と高値群でリスクの上昇がみられたが、有意差はなかった。鈴木氏は「さらに対象者を増やしてリポオキシゲナーゼ経路と大腸癌の関連の有無について検討したい」と述べた。